読書メモ:「欲望の見つけ方」(ルーク・バージス)

会社の同僚にすすめられ、社会学者ルネ・ジラールが体系化した模倣の欲望理論についてわかりやすく解説された「欲望の見つけ方」を読んだ。端的に説明すると、人の持つ欲望のほとんどは誰かの欲望の模倣であることを解説した本だ。

 
福音書を紐解きながら秩序維持の手段としてスケープゴートカニズムが利用されてきた歴史を解説したり、「オメラスから歩み去る人々」を引用し現代社会の矛盾を説いたり、マリア・モンテッソーリの子どもに対する洞察を通して欲望をモデル化する重要さが記されており、などなど…大変示唆に富んだ良書だった。
直接的な言及はなかったが、いじめの要因もスケープゴートカニズムで説明がつくな、という気づきがあった。(話がそれるが、いじめに関しては結局環境を変えてしまうのが最もてっとりばやい解決方法だと感じた。)
 
読後、自分にバイアスがあること、自分が普段持つ欲望のほとんどが模倣であることにもっと自覚的でありたいと考えたりしたが、インターネットやSNSが身近な今の時代にあってはなかなか容易にできることではない。
 
本書では欲望には「薄い欲望」と「濃い欲望」の2タイプがあること、薄い欲望につけ込んだビジネスの存在についても言及されている。
「薄い欲望」というのは簡単にいえば真似しやすく、表層敵・刹那的な欲望のことである。糖分、炭水化物など中毒性のある食物や嗜好品、ソシャゲなどをイメージしてもらうとわかりやすいと思われる。例えば私は一昨年くらいからクラフトビールにハマっているが、これは典型的な薄い欲望だろう。
 
 
毎瞬自身に問うのは限界があるが(夕食の度に毎回「これを食べなかったことで死に際に後悔しないか?」とは自問はしない)、薄い欲望に自覚的になることで時間やエネルギーを浪費せずに済む機会は増やせそうだ。
 
AIなどの普及でハードルが下がっているが、創作は濃い欲望に分類されるかもしれない。創造的な姿勢は幸福度を高めることにつながることを発見した研究もあるし。
人間、易きに流されてしまうのは仕方がないのだけど、だからこそ自分と向き合い、心から欲しいものはなんなのか、意識的に問い続ける大切さをあらためて思う。
 
本書の惜しいところは、邦題と装丁だろうか。
(ちなみに原題は「Wanting: Mimetic Desire: How to avoid chasing things you don’t truly want」 )
この邦題だと本書を欲している人にリーチしづらい気がした。書籍を売るために大変なご苦労をされているとは思うが、編集者にはもうちょっとがんばってほしかった感がある。
 

早川書房のnoteで本書の冒頭部分が公開されているようなので、興が乗るようであればぜひ一読いただきたい。

 

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