読書メモ「資本主義の次に来る世界」(ジェイソン・ヒッケル)

書影

 

「資本主義の次にくる世界」(原題:Less is more)を読んだ。

以前から常々、営利企業が事業成長を目標にしながらSDGsを掲げるって、矛盾してない?みたいな疑問を抱いていたものの(「SDGs」自体にも疑問はあるが長くなるので割愛)、ではそこにどういった解があるのか、能動的に知ろうとしてなかったなーと思っていた折に出会した一冊。

 

めちゃめちゃ雑に概要を説明すると、現状の世界の自然破壊をはじめとする課題、資本主義の歴史と浸透のプロセス、大量消費を止めたり労働時間を減らしながら人が豊かに生きるためにできることは何か、アニミズム・二元論との対比や「脱成長」をキーワードにポスト資本主義への道筋が説かれている。

 

以下、本書で印象的だった部分を抜き書きする。

 

  • 前提:資本主義は「成長」要求を中心として組織されている
  • デカルトの二元論、物質論(機械論哲学)は人と自然を分断した。
  • 身体論は労働を抽象化し、自然や土地と同様に労働も「商品化」した
    • 当時の既得権益層(資本家・教会)にとっても二元論、身体論は都合が良かった。
  • (主に中世欧州において)労働が法律で強制される以前、人々の生活にはゆとりがあった
    • 祝祭や安息日が多く、例えば中世イギリスでは一年の1/3が休暇だった
  • 神と自然を同一視するスピノザの一神論はキリスト教のコアとなる考えを否定する思想であったために当時の教会支配層から異端視、迫害を受けた
  • 数世紀にわたる科学の進歩で、デカルト心身二元論に関する誤りのみでなく、スピノザの主張の多くが正しいことが確認されている
  • 1600年代にスピノザの思想が欧州で主流になっていたら?という思考実験
  • 地球が耐え得るマテリアル・フットプリントの限界を二倍以上超える資源が世界(大半は富裕国)で既に使用されている
  • プラネタリー・バウンダリーの概念
    • この範囲内で機能できる経済を再編成する必要がある
  • 「資本主義」と「民主主義」は両立しない
  • GDPには代替指標がある
    • BLI
    • ISEW
    • GPI(真の進歩指標)
  • 国家によるメディア支配、英国や米国も顕著だよ
  • アニミズムの根底に流れる精神は「互恵」
  • 人の細胞数およそ37兆に対し体内の常在菌は40-100兆存在
  • 細胞器官のミトコンドリアは、人間の進化の時点で取り込まれた細菌に由来していると考えられている
  • 樹々は菌根菌という地中ネットワークを介してコミュニケーションをとっている
  • 1ブロックの街路樹10本増えるだけで近隣の人の心血管代謝向上、2万ドルの臨時収入あるいは7歳の若返りに匹敵する、という樹木の恩恵を数値化したカナダ人科学者による研究がある
  • 法人に人格を与えるように、河や山にも人格を与える国が出始めている

 

(そんなん常識でしょ、みたいなトピックも一部あるけど、自分的にハッとしたものもあげた)

 

あんまり抜き書きしていても冗長なので一旦止めておくが、想像以上に濃く深い一冊だ。

ミトコンドリア遺伝子が進化の過程で外部から取り込まれた細菌の可能性がある、というのもなかなか衝撃的な話だが、個人的に一番エキサイトした部分は樹木における菌根菌の件だろうか。

 

菌根菌というのは植物の根に入り込み、植物と共生する微生物の総称なのだが、この菌根菌のネットワークを通して植物や樹々は人間のニューロンのように、(比喩ではなく文字通り)「解決、学習、記憶、意思決定」をしているのだそうだ。

例えば、アブラムシの攻撃を受けた樹木がこのネットワークを通じて近くの樹木に防御反応を高めておくよう指示したりするのだという(!)

 

この本は近所のカフェで読み終えたのだが、カフェを出たらなんだか世界がまったく違って見えてくるような錯覚を覚えた。

 

元々メタセコイアとか大きな樹が好きだったりするのだが、近所の緑道の灌木や区の保護樹林を眺めては、皆近くの植物と喋ってんのかな?と想像しては、樹木に対する畏敬を新たにしたりした。本書の主題とはなんか逸れている気がするが、そんな新たな視点が得られただけでもだいぶ私にとっては価値のある本だった。

 

思ったところをひとつあげると、本作における著者の提案は自然を破壊しない使用価値に基づく経済なのだが、これはだいぶ人の性善説によった論拠のようにも読める。ご存知、今も現在進行系で戦争が各地で起きている。移民問題やオーバーツーリズムといった問題もある。人の光の部分を信じたいが、闇の部分も直視する必要があるとなったとき、闇のほうもカバーした施策をすでに試しているような事例はでていたりするのかが気になった。

おすすめです。

 

・資本主義の次に来る世界(著:ジェイソン・ヒッケル 訳:野中香方子) 

https://amzn.asia/d/5daPrNI