おっさんとタイ人の彼女と銭湯と。

まだ肌寒い、3月のある晴れた月曜の話。

まぁついこの前なんだけど。

 

スーパー銭湯でも行くか

と思い立ち、夕方くらいに家を出る。

早くついて夜10時くらいには帰ってこようと考え、新宿の銭湯に出かける。

 

湯船でゆっくり身体を温めたあと、

いつものようにサウナ・水風呂・露天風呂側のベンチ往復する。

たしか、2回目にサウナに入った時だと思う。

サウナ室の中に入ると客は自分一人。

下から二段目の真ん中に腰を下ろす。

 

その直後、小太りのメガネをかけたおっさんが入ってきた。

ついつい「メガネだいじょぶですか?」とおっさんに声をかけてしまう。

おっさんは「あぁ、座ったあとすぐとるのでだいじょぶですー」と、
意に介したふうでもなく座る。

 

そうなのかとおもい黙っていると、

おっさんのほうから色々話しかけてきて、
視力がどちらも0.02なんですわ〜とか、
会社からここまで歩いて二分で近いんできてみたんですー
今日でくるの二回目なんですーみたいな話をしだした。

 

けっこう話が続いたので、付き合ってたらサウナも長引きそうだなぁと思い、
適当に相槌をうったあと会話を切り上げて

サウナ室をでてシャワーを浴びる。

その後水風呂に入りに行くと、さっきのおっさんが既にいてこちらをみている。

 

で、やっぱり話しかけてきた。

おっさん、腰まで水につかった状態でずっと話している。
新宿は六丁目にもヤクザはたくさんいますよ、とか、
温泉好きで、長野や軽井沢にゃよく行きますよ、とかなんとかかんとか。

万葉の湯もよく知っていた。

自分が子どもの頃の銭湯は、刺青あっても全然OKだったのに、
最近はどこも厳しいですね。という話もしていた。

 

更に続けて自分のオフィスの周辺で働くホストが

オフィスと同じ物件の近くのマンションに住んでいて、
刃傷沙汰もけっこうあるよ、なかなか物騒だよ、という話。

(実際、ぼくも刺青こそないものの、

その筋っぽい兄さんを度々この銭湯で見かけている。)

結局、水風呂でも10分ちかく話し込んでしまう。
おっさんは平気な様子でずっと話している。

途中で炭酸風呂へ移動する。

多分21時を過ぎたくらいだったんじゃないだろうか。

 

おっさんも一緒に入っていて、まだまだ話を続ける。

新宿六丁目にオフィスがあること。
不動産業を営んでいること。
彼女がタイに帰ってしまってること。

(彼女タイの人かよ、と心のなかで突っ込んじゃったよね。)

 

家に帰っても特にやることないし、

ここ(銭湯)にくると家に帰りたくなくなるらしい。

自宅は杉並にあること。彼女には子供がふたりいること。

 

下の女の子はスイス人と結婚してスイスで働いていること。
タイではエステをやっていたけれど、設備をおいて旦那といること。
上の子は何をやっているのかきいた気がするが忘れてしまった。

 

タイのほうが住みやすい、という話や、
今はタイの医療技術が進んでいる話。
病院スタッフはだいたい英語を解し、話せる。
少ないけど、日本語を話せるスタッフもいること。
本国より費用がかからないので、手術ツアーとかいって、
ヨーロッパからツアーを組んでタイまでやってくる欧州人が増えていること。

 

タイは仏教徒が多い。
都市部はそうでもないが、村へ行くとだいたい親類ばかりで、
卒業式や葬式、結婚式の度にたくさんの親類知人、村の人を呼んで

盛大に式を開くのがお約束になっている。

だいたい2〜5日くらいぶっ続けでやって、
村人全員(200人分?)の食事を用意しないといけない。

だいたい一回で200万円くらいかかる。
村のそういうつながりを避けたくて、娘達は都市部にうつった。

 

それからタイの北部の村にアパートを建てた。
10部屋くらいつくって、1,500万円くらい?
一部屋だいたい7万円くらいで貸して、利回りだいたい5%

ラオスとの国境になるメコン川沿いにあるところで、

本当になにもなかった田舎だったけれど、

その後橋がかかってイミテーションができたので、
そこで働く男女がアパートに入居してくれるのだそう。

コインランドリーも一緒に作ったらかなり儲かって、三ヶ月で元がとれた。

アパートの住人だけでなく近隣の地元民も使っている様子。
他にも似たようなアパートができてきたが、
値下げ競走はしたくなかったので、

コインランドリーや家具をつけて差別化をはかった話もしてくれた。

 

会社の金を使ってやったので、これが売れなかったらマジでやばかったなぁ、
と心のそこから安心しきったような表情で話してくれた。

チェンマイにもマンションを買っていたので
(まだ完成してないけど)アパート経営がダメだったら、

最悪そのマンションを売ろうと考えていたこと。
そんなことをずーっと延々話していた。

 

それから彼女とふたりでタイ国境付近の温泉リゾートに行った話も。
行きはここに寄ってみないか、みたいなかんじで

ドライバーが営業をしかけてきたりするらしい。

温泉リゾートはコテージがあって、

すぐそばに水着ではいれるぬるめの温泉がある。

帰りのタクシーは橋を渡って川沿いをまっすぐ走って帰っていった。
半日貸しきって600バーツくらいだった。

 

 

…………みたいな話をずっときいていたら、

いつのまにか時間は12時近い。


やべぇなぁと思いながらようやく湯船を出たら、
グラっと視界がゆがみ身体が傾く感覚。


指もめっちゃふやけている。
すぐそばのイスにいったんすわって落ち着く。
けっこう頭がぐわんぐわんきている。

 

少し落ち着いてきた気がしたので、

冷水を浴びようかなぁ、そう思って立ち上がり、

サウナ横のシャワーのほうへ歩いて行く。
まだふわふわしている。

 

おっさんは心配して見ている。

どうやらシャワーのなかで二回ほど気を失ったらしい。
この前後の記憶はほとんどない。

どうやらシャワーに移動した途中から、

銭湯のスタッフの兄さんも様子をみてくれていたらしい。

髪が長めで目の大きい茶髪のにいちゃんと
坊主のあたまのほっそりしたにいちゃん、
あと天パでパイナップルみたいなにいちゃんが
脱衣所にイスをイスをもってきてくれたり、

塩水をもってきてくれたり、いろいろ介助してくれた。

 

まさに、不覚。

 

おっさんは(たしかカミヤさんと名乗った)オフィスまで近いからか、
ずっと付き添って様子をみてくれていた。

帰りにタクシー代に、といったような言い方で1,000円を渡そうとした。

ありがとうございます、とお礼だけいって断った。

10,000円だったら受け取ったかもしれない。

泊まろうとすると1時から深夜料金がかかることや、
翌日が仕事だったので、家に帰ることを選択。

帰りはUberを呼んで帰った。
明治通りを恵比寿までひたすら走るだけで、

新宿から恵比寿まで距離にして6kmという長さだった。

 

これなら、チャリでこれるなぁ、そのときなんとなく頭によぎった。
Uberのドライバーのおっさんは、税金が工事に使われていることに対して、

ブツブツ文句をつぶやいていたような気がする。

不満や愚痴をこぼしても現状はなにも変わらないのに。

おっさんに説教してもはじまらないけれど。

 

Uberは4,000円。ビビる。

恵比寿駅の前で降りて、途中のファミマでポカリスエットを買い、

そこから歩いて家に帰る。

自転車をマークシティの駐輪場においたままで、どうしようか参った。

(そういえばいつ取りに行ったのか覚えていない。)

いや、銭湯で話しかけられても、慣れてないなら長湯はしちゃダメですね。。